覚王山とは。

名古屋市の中において独特の雰囲気を持つ覚王山の魅力をご紹介します。

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覚王山を知る。

お釈迦さまの遺骨がつないだ縁 ― 日泰寺とタイ王国

お釈迦さまの遺骨がつないだ縁 ― 日泰寺とタイ王国

覚王山を歩いていると、タイ料理のお店やタイ語の看板、本堂の額に書かれたタイ文字など、ふとした場面で「タイ」に出会います。名古屋の住宅街と東南アジアの王国。一見つながりのなさそうな二つを結んでいるのが、日泰寺に祀られたお釈迦さまの遺骨です。この記事では、仏舎利が海を渡ってきた経緯と、寺の名前、そして「覚王山」という地名の由来をたどってみます。

インドで見つかったお釈迦さまの遺骨

話は明治31年(1898年)1月にさかのぼります。当時イギリス領だったインドの、ネパール国境に近いピプラーワーという土地で、イギリス人のウィリアム・ペッペが古い墳墓を発掘し、人の骨を納めた壺を掘り出しました。壺の表面には古い文字が刻まれていて、読み解くと、釈迦族の人びとがお釈迦さまの遺骨を納めたものだという内容だったそうです。

この発見は、お釈迦さまが実在の人物だったことを裏づけるものとして大きな話題になりました。壺などの出土品はインドの博物館に収められましたが、遺骨そのものは、仏教国であるシャム(現在のタイ)の王室に贈られることになります。

タイ国王から日本へ

遺骨を受け取ったのは、タイの近代化を進めたことで知られるチュラロンコン国王(ラーマ5世)です。国王は遺骨をバンコクの寺院に祀り、一部を同じ仏教国のセイロンやビルマにも分けました。これを現地で知ったのが、日本の公使としてバンコクにいた稲垣満次郎です。稲垣は日本の仏教徒にも分けてほしいと国王に願い出て、「タイ国王から日本国民への贈り物」として分与されることが決まりました。

知らせを受けた日本では、当時の仏教13宗56派の代表が話し合って受け入れを決め、東本願寺の大谷光演を正使とする使節団をタイへ送りました。使節団がバンコクの王宮で遺骨を受け取ったのは明治33年(1900年)6月15日。このとき国王からは、新しく建てる寺のご本尊にと、千年を経たと伝わる金銅の釈迦如来像も贈られています。日泰寺ではいまも6月15日を「奉安記念」の日としています。

なぜ名古屋に建てられたのか

日本に届いた遺骨は、まず京都の妙法院に仮に安置されました。問題は、どこにお寺を建てるかです。各宗派の意見は分かれ、候補地選びはなかなかまとまりませんでした。最終的に決め手となったのは、名古屋の官民がそろって進めた誘致運動です。市民の協力で広い敷地が用意され、明治37年(1904年)、いまの場所にお寺が誕生しました。

日暹寺から日泰寺へ

創建当時の寺号は「日暹寺(にっせんじ)」でした。「暹」はシャムを漢字で書いた「暹羅」の一字で、日本とシャムの友好を表しています。その後、シャムが国名をタイに改めたことを受けて、寺号も「日泰寺」に変わりました。「泰」はタイのこと。名前そのものが、二つの国の親しい関係を刻んでいるわけです。

改称は昭和17年(1942年)のことです。シャムが昭和14年(1939年)に国名をタイ王国へ改めたのに合わせたもので、日泰寺専門僧堂のサイトや愛知県の観光サイトでも、そのように紹介されています。

「覚王山」という地名の由来

では、「覚王山」とは何でしょう。お寺には「〇〇山」という山号がつけられることが多く、日泰寺の山号が「覚王山」です。「覚王」は悟りを開いた王、つまりお釈迦さまを指す言葉。お釈迦さまの遺骨を祀る寺にふさわしい名前として選ばれました。

お寺ができると、参道へ続く道や周辺の一帯も「覚王山」の名で呼ばれるようになります。いまでは「覚王山通」という町名が残り、地下鉄東山線の駅名にもなって、すっかり町の名前として定着しました。私たちが何気なく口にしている「覚王山」は、もとをたどれば「お釈迦さまの山」という意味だったのです。

いまも続くタイとの交流

日泰寺とタイ王室との行き来は、その後も続いています。境内を歩くときに思い出したい出来事をいくつか挙げておきます。

  • 昭和38年(1963年):国賓として来日したプミポン国王とシリキット王妃が参拝
  • 昭和59年(1984年):新しい本堂の完成に際し、プミポン国王から釈迦如来像と直筆の額が贈られる。額はいまも本堂正面に掲げられています
  • 昭和62年(1987年):日タイ修好100周年を記念して、本堂の西側にチュラロンコン大王の銅像を建立。来日中の皇太子(現在のワチラロンコン国王)が除幕に立ち会いました
  • 毎年10月23日:チュラロンコン大王をしのぶ法要が営まれています

本堂の西側に立つ大王像の前で足を止めると、120年以上前にバンコクから届いた贈り物が、この町の名前や風景をつくってきたことがしみじみ感じられます。覚王山に来たら、ぜひ本堂とあわせて訪ねてみてください。

参考